カーラボーンフォビア

鎖骨が怖いのです。

といっても骨折やケガをしたわけでなく、トラウマになる経験があるわけでもありません。
いつからそうなのか、きっかけは皆無なのに、気づいたときにはそう感じるようになっていました。

「ハチに刺された」「溺れかけた」「ヤケドした」「麦茶のつもりで麺つゆ飲んだ」「夏場に放置した肉が勝手に動いたと思ったら、大量発生した・・・」など、過去の経験に起因する恐怖の対象は人それぞれだと思いますが、ボクの場合は何の要因もないにも関わらず、「鎖骨」が恐怖なのです。

ナニ言ってんのー!?
女性のキレイな鎖骨とか魅力的じゃーん!!

という男子諸兄のご意見も重々承知しておりますが、大鎌を携え全身黒ローブの目しか見えない服装で闇に乗じて現れるようなタイプだとしても、鎖骨が隠れてさえいれば良いのであります。

恐怖症を表す言葉に○○フォビアというのがあります。

アクロフォビア(高所)、ベロネフォビア(先端)、アラクノフォビア(クモ)、トライポフォビア(集合体)などがそうですね。

調べた限り、「鎖骨恐怖症」というのは見つからなかったので、先の例に倣って「カーラボーン(collarbone)フォビア」としておきました。
clavicleという医学用語もあるそうです。

そこで、本稿では

・恐怖というメカニズム
・鎖骨に恐怖を感じるメカニズム

に焦点を絞り、考察してまいりたいと思います。

みなさまにおかれましても、読後には鎖骨に対する新しい感情をお持ちいただくことになったとしたら恐悦至極にございます。

では参ります。

第一章:恐怖というメカニズム

冥きより 冥き道にぞ入りぬべき 遥かに照らせ山の端の月
- 和泉式部 -

「人間の感情の中で最も強いものは、恐怖の感情です」(ジョン=カーペンター 映画監督)

米ワイオミング大学の昆虫学者、ジェフリー・ロックウッドは常に昆虫と接する仕事をしているにも関わらず、バッタの群れに遭遇した際にパニック発作とおこしたといいます。
ジェフリー自身は、理解できないほどの数のバッタを目撃したため湧き上がった恐怖心だと分析していますが、人は予測や理解できない「不確実」なモノを恐れる傾向にあります。

昆虫は一部の種類に毒があり、身体構造や行動原理が人のそれとは異なりすぎる不確実な要素の多い存在のため、恐怖の対象になるというワケです。
※諸説あります

夜中にキッチンなどで唐突に遭遇する、立派な触覚をお持ちの黒光りするヤツなど、「キケン」「不快」「拒絶」と脳内のMAGIが一斉に回答を示してきますよね。

続いて、生体的恐怖について。

生体的恐怖というのは、災害や拷問、監禁など生命の危機を感じる恐怖です。

これは本能的にヤバイと感じられる怖さですね。

相手は自然や病原菌、人、動物、エイリアン、兵器、銃器など。

ここに文化や宗教という側面も絡んでくるので、怖さの感じ方に差が生じます。

例えばデビルやデーモンは、日本人からするとあまりにファンタジー色が強すぎる空想の存在ですが、キリスト教圏では実害が生じる恐怖の対象として非常に恐れられています。


恐怖を感じることは、身体の警報システムが機能している証拠だと精神分析学者ローラ・ジェランは説明しています。

そんな恐怖をひとたび乗り越えると、報酬ホルモンと言われる中毒性の高いドーパミンが分泌され、大きな満足感を得られるので、多くの人が「怖いモノ」に惹かれるというワケですネ。

フィンランド・タンペレ大学のAllan Kalueff氏によると

「恐怖と快感の処理に関する脳の部位はかなり重複している」

そうです。

人間の脳には、危険を意識的に判断する前頭葉皮質という部位があります。
ゲームや映画がどれだけ凄惨で、酸鼻を極める描写が続いたとしても、実際には危険な状況に陥ることはないと前頭葉皮質がお墨付きを与えてくれるので、安心して怖さに身を委ねられるのです。

「ソウ」も「ホステル」も「バイオ」も「クロックタワー」も「ムーンライトシンドローム」も面白かったですよね。


第二章:鎖骨に恐怖を感じるメカニズム

肩や背中がかゆいとき、つい掻きすぎてとびひしちゃった

ということは経験ありませんか?

「自分で見ることができない」

ことが多分に関わっているのではないかと推測しています。

手や足が痛いとき、創傷部位を目で確認したうえで擦ったりできますよね。

実際に手を当てると「触られた」という刺激を脳が感じるため、痛みが和らぐとか。
※手当の語源と言われています

それに対し、鎖骨は鏡などを使用しない限り自分で見ることができません。

ましてや、そこを鈍器などで殴打され骨折しようものなら・・・

あぁぁーーーっ。

こうして文字にしているだけでも、なんかキモチ悪くなってきました。

よく考えると、ここまでなにひとつ考察らしいことはしていませんが、改めて「鎖骨が怖い」強度が増したことだけは確実なようです。

この話を知った悪いあいかとあいなが、これみよがしに鎖骨を見せてくるようになりました。

あいなはダイエット詐欺継続中のため、鎖骨アピールしても周りの肉が多少カバーしてくれますが、毎日筋トレなどボディメンテナンスに余念のない、あいかはもう骨が・・・ホネがっ…。

しかも自ら軽くコンコンと叩いたりするので、ホントに恐ろしくて直視できません。

これは立派なハラスメント行為だと思うので、ナニかあった際は

「長年にわたり、骨ハラを受けています」

と訴えようと思います。

骨(おもに鎖骨)を本気で怖がっているのに、ワザと視界に入れてくるハラスメント、の略ですね。

幸いこれから寒い季節になるので、約半年の間は怖い思いをせずに済むことを祈るばかりであります。

 

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